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インタビュー

こちらのページでは、看護師さんへの支援について、関係者の皆様に行ったインタビューを紹介します。
初回は,2018年2月に行った研究代表者へのインタビューを掲載します。

レジリエンスが本来の自分の能力を引き出し
キャリアへの動機を維持し続ける力となる

共立女子大学看護学部看護学科教授 伊藤まゆみ

困難からポジティブなエネルギーを生み出すレジリエンス

医療の現場では患者さんが第一ですから、常に患者さんにとって何が良いかを考え、そうしたニーズに適切に応えながら看護師としてのキャリアを積んでいきます。そしてその過程では、自分が経験してきたことを、伝統的に後輩に教えるのですが、例えば、ターミナル(終末期)ケアにおいて、患者さんに接する看護学生は「怖い」という感情を抱きます。私自身15年間大学病院で看護師として勤務した経験から、怖いという感情を抱くのは、患者に関わる際のスキルが未熟だからと理解し、それならば足りないスキルを獲得させれば良いと考えて指導してきました。ところが、それで変わる人と変わらない人がいるのです。それはなぜだろうかとずっと考えていたのですが、一向に答えは出てきませんでした。

この疑問にヒントを与えてくれたのは、大学院の博士課程で恩師が指摘してくださった「なぜ怖いという感情を持ってはいけないのか」という一言でした。その時初めて「怖いと思ってもいいのだ」と気付かされたのです。それからは、怖いという感情を持つのは当たり前。その上でその人をどうサポートをしたら前に進めるのかという発想に変わりました。

仕事の上で何か困難に直面した際、その経験をポジティブな成果に結びつけていこうとする「レジリエンス」という考え方が、自分のキャリアを中断しないために、とても重要になります。しかし私自身は、大学病院で勤務した15年の間、そうしたことはあまり意識していませんでした。現在、レジリエンスを研究していて分かったことは、仕事において辛いとか怖いという感情を抱いた際、それをネガティブなものに位置づけたままだと、ポジティブな方には変わって行きませんが、困難な状況にあるからこそ努力して、それを新たなエネルギーにしようと思考することで、良い方向に変化するということです。

「さあどうしようか」と考え始めた時、本来の力を発揮する

私はケアの最前線にいる看護師の皆さん、つまりケアをする人たちのケアを目的に、看護学生に、看護学を教えると同時に、カウンセリングを教えています。これらを身に付けることで初めて人はケアができるようになると考えているからです。カウンセリング領域の中には、治療的問題を扱うものもありますが、私が行っているのは、開発的カウンセリング。つまり、その人の能力を伸ばすカウンセリングです。

これまで看護の現場では、こうした手順で行えば大丈夫、とスキルを重視してきました。スキルとは本来、その場の状況を読み取り、それにあわせて対応する力です。さらに、何のために自分はそれを行うのか、という本質を自分が認知することが大切なのです。現場では、うまくいくこともいかないこともある。そうした状況を、自分がどう捉えるかという認知の仕方も含めて、教える必要があります。そのため何かを教える際、うまくいく場合もいかない場合もあるけれど、うまくいかなくても大丈夫だと認知してもらうのが、カウンセリングの役目だと思っています。人はうまくいかない中で「さて、どうしようか」と考えた時、初めて「自分の本来の能力」を使い始めます。様々な選択肢の中から、柔軟に自分に合ったやり方を見つけ出すこと、それが生きる力であり考える力なのです。

そのため、スキルだけを教えることに私はあまり意義を見出せません。大切なことは、それがその人にとってどういう意味を持つのか、さらに患者さんにとってはどうなのか、その両方がうまくマッチした時に初めて、ケアしている方も、ケアを受ける方も幸せになる。片方だけが幸せという状況では、その人のキャリアは長続きしません。さらに、自分たちだけがケアしているのではなく、実は自分たちもケアされているとういうことを意識してほしいのです。

うまくいかない経験を通して自分の感情を調整する
スキルを身に付ける

最近、「マインドフルネス」という言葉をよく耳にしますが、特に医療の現場では、将来のリスクばかりを考えて不安になるという傾向があります。その際、先のことを考えるばかりではなく、「いま何ができるのだろうか」という思考に自分を持っていけるかどうかが重要です。未来はいまの延長線上にあるため、不安ばかりを考えていたらやはり未来が不安になってしまいます。特に学生のうちは「あれもできない、これもできない」と不安になりますが、その中でいま自分ができることは何なのか。そこをしっかりと考えて欲しい。たくさんのリスクを抱え、それが頭の中で行ったり来たりして不安が止まらなくなると、思考が狭められ、鬱状態になりかねません。そのため、そうしたすぐに悪いことばかりを不安に思ってしまう受動的思考は矯正しなくてはなりません。

私たち看護カウンセリング研究会は、2日間にわたる研修を実施し、そこでは感情の開示や筆記開示のほか、コミュニケーション・スキルの使い方を学びます。ただ、それだけでは、それらをスキルとしてどう使うかということばかり考えてしまうため、「うまくいかないという体験」を通して、そこからどうやって自分の感情を調整していくかというトレーニングを行っています。このように、看護師の方々に認知の修正方法を身に付けてもらっているのですが、実際に成果も上がっています。

私が考える看護とは「その人の生き方を尊重した健康支援」という一言に尽きます。病気を治療するのは何のためかといえば、それは自分が生きるために治療するわけです。ケアとは、その人自身が置かれている環境で生活を続けるために行うものです。患者さんが自分の人生を生きるために、私たちはどのような健康支援ができるのかを考えて、コミュニケーション・スキルを活かします。そこはとてもシンプルで、カウンセリングのベースは人間関係をつくるところにあります。患者さんを理解し、関係性をつくれなければ、ケアはできませんから。